16日、千葉、茨城県沖の轟音の正体は「隕石などではない」
“謎の火の玉”は吹き出したメタンガスが原因だった
群発地震がもたらす 海底ガス大爆発の悪夢--メタンハイドレード
21世紀の新エネルギー源として期待されているメタンハイドレード。
だが、地震などが“引き金”になって、大災害の原因となる可能性があるいうのだ…
「最初に東向きの窓がパアーッと明るくなり、次にドカーン!と、凄い爆発音が響きました。ガラス戸棚がカタカタ震えたけれど、地震とは違う感じでした。外の黄色っぽい光も雷みたいに瞬間的ではなく、3〜4秒間続いたと思います。いったい何が起きたのかわからず、しばらく立ちすくんでしまいました……」
6月16日の夜10時過ぎ。茨城県神栖町に住む本誌読者の主婦Mさん(43)は、遅い夕食の片付け中に、その不気味な“異変”に襲われた。
突然の爆発音と太平洋側の夜空の発光。同じ時刻に、関東地方各地で大勢の人々が、ほぼ同じような体験をした。
明けて17日には多くのマスコミが、その謎の現象の正体は“隕石”ではないかと報じた。隕石のなかでも珍しい、強く光り輝く“火球”が、栃木県方向から茨城県の鹿島灘方向へ落下したというのだ。 さらに18日には、気象庁が火球説を裏づける“証拠”を発表した。それは伊豆・伊東市に設置された高感度カメラが撮った写真で、北東の夜空にポツンとひとつの光点が写っていた。そして国立天文台も、「やはり火球だった可能性が高い」と、発表した。
これにて一件落着。なんだ、あれは隕石だったのか……。
多くの読者が、そう思ったはずである。
しかし、このニュースについて多くの専門家の意見や体験者の証言を取材した本誌取材班は、それほど簡単には納得できないのだ。
まず、証拠写真。16日の関東地方は曇天で、鹿島灘から約150キロ離れた伊東市で撮られた光点もボンヤリと霞んでいた。こいつは、本当に火球なんだろうか!?
毎日、夜空に注意を向けている天文観測家たちによれば、大爆発音を発するような大火球は当然ながら日本各地で観測されたはずだという。だが、目撃報告は皆無だった。
同じく、日夜さまざまな自然界の変化から地震や火山噴火の予知活動を続ける民間研究者によれば、
「伊東市の高感度監視カメラが向けられた伊豆東方沖海域では、6月13日から千回近い群発地震が観測されています。写真の光点はその真上に位置し、地殻変動による電気的な発光現象とも考えられます」(新日本地震雲研究会・鹿嶋実代表)
もうひとつ、本誌が取材した貴重な情報がある。
「16日の午後7時過ぎにも、海の方からドーン!という音が聞こえ、水平線方向に赤っぽい光が見えた。靄で視界が悪く漁船は出漁していなかったので、集魚灯とかの人工的な光じゃないことは確かだ」(千葉県・銚子漁港関係者)。
つまり、16日午後10時過ぎの大異変から3時間前にも、小規模ながら同じ現象が起きていたらしいのだ。
燃える津波の沿岸を襲う
とにかく気象庁発表の写真だけでは火球が原因だったとは断定できない。仮に隕石が太平洋に落ちたとしても、なぜ巨大な炎のような光が何秒間も目撃されたのか? どうやら真相を解き明かす鍵は、空ではなく海にありそうだ。
そこで日本を代表する海洋科学者・奈須紀幸博士(東大名誉教授)にお話をうかがったところ、やはりこんな答えが返ってきた。
「私も、16日夜の異常現象は火球の落下では説明が難しいと思います。関東地方の人たちはご記憶でしょうが、あの日の夕刻に茨城沖を震源とした有感地震が起きました。おそらく、この地震が謎の爆発音と発光現象の引き金になったと推測しています」
どういうことか? 調べてみると問題の地震は16日18時34分頃に発生したマグニチュード5.1の中規模地震で、東京都内でも震度2〜3の揺れが感じられた。震源地は茨城沖数十キロの鹿島灘。そして15日と9日にも、ほぼ同じ海域で有感地震が起きていた。奈須博士は続けていう。
「これらの地震によって、関東太平洋沿岸の水深数百〜3千メートルの海底で地殻変動が起き、海底下に埋もれていた可燃性のメタンハイドレート(※説明参照)という物質が海面上に噴出し、空中放電によって大爆発を起こしたという推理が成り立つのです」
メタンハイドレートという科学用語は、数年前からしきりとマスコミでも紹介されてきた。この天然物質は燃料となるメタンガスを多く含み、日本列島周辺海底に大量に埋もれている。そこで、新しいエネルギー資源として大きな期待がかけられているのだ。
しかし一方で、メタンハイドレートの危険性を唱える科学者たちも多いという。
「例えばフロリダ沖の大西洋には、昔から原因不明の船舶・航空機事故が多発してきた“バミューダ・トライアングル”という魔の海域があります。その事故原因をアメリカの海洋学者が1998年に解明し、メタンハイドレートの噴出爆発だということがわかったのです」(奈須博士)
日本でも昔から、周辺海底を震源とする大地震が起きるたびに、“海が燃える”奇怪な現象が目撃されてきた。例えば明治29年の三陸大津波でも、燃え盛る大津波が沿岸地域に押し寄せ、災害規模を破滅的に拡大させた。そして今後も、メタンハイドレートの津波が日本列島を襲うことも十分に考えられるのだ!
今、秒読み段階といわれる巨大地震の再来に、さらに恐怖の拍車をかける“諸刃の剣”が、メタンハイドレートではないのか!? 6月16日の異常現象は、われわれへの緊急警告かもしれない……。
(※説明)
メタンハイドレート/大陸棚斜面の数百〜数千メートルの海底下に閉じこめられた可燃性メタンガス。高水圧で氷結しているため、海上に出るとガス体積は数百倍にも拡大する。
日本では3年前から、この天然物質を石油や原子力に替わる新エネルギーとして採掘利用しようという政府計画が、本格的にスタートしている。
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